083を読む

083 俶載南畝 我藝黍稷
  Chu4 zai4 nan2mu3, wo3 yi4 shu3ji4.

 前行である第82行に「治本於農,務茲稼穡」とあるのを承けて、農業の話題を続けます。
 まず典故を指摘しておくと、前の句は『詩経』小雅「大田」の詩に、後の句は同じく『詩経』小雅「楚茨」の詩をそのまま引用しているものです。
 「俶」は『新華字典』によると多音字で「一 chu4」「二 ti4」の二音ですが、ここは前者「〈古〉开始」です。
 「載」も「一 zai4」「二 zai3」と声調で読み分けます。ここでは前者、完全に合うものがないのですが、第3義を採っておきましょう。
 「南」は1義のみ。
 「畝」も1義のみ、「市制地积单位」とありますが、ここは農地の意味です。
 「我」も1義のみ。
 「藝」は適切なものがないので第1義を採りますが、ここでの意味は植物を植える、という意味です。『新華字典』の「yi4」の発音を見てゆくと「蓺」の字があり、「种植:树蓺五谷。蓺菊」と説明されいます。これですね。
 「黍」は1義のみ。
 「稷」は第1義です。
 前句は『詩経』小雅「大田」の詩に「大田多稼,既種既戒,既備乃事。以我覃耜,俶載南畝」と見え、後句は小雅「楚茨」の詩に「楚楚者茨,言抽其。自昔何為,我蓺黍稷。我黍與與,我稷翼翼」と見えます。前句・後句ともに、古典の後句をそのまま引用していますね。
 『詩経』『尚書』などの古典中の古典は、長きにわたって親しまれてきたので、繰り返し引用され、その過程で、新しい意味を派生します。たとえばこの行に見える「俶載」は「俶」は「はじめて」という意味の副詞、「載」は「仕事をする」という意味の動詞らしいのですが、この『詩経』の文脈に基づき「農事をはじめる」という意味として、後世用いられた例があります。「俶載」といえば、『詩経』を思い出す、というわけです。