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015 愛育黎首 臣伏戎羌
  Ai4yu4 li2shou3, chen2fu2 rong2qiang1.

 この1行は、すべて2字の句でできていますが、まずは1字ずつ調べてみましょうか。
 「愛」は、『新華字典』の第1義ですが、その用例として「拥军爱民。爱祖国。爱人民。友爱」と挙がっており、そのうちの2つが「爱民」であり、この『千字文』と似た発想です。この考え方が生きていることが分かります(「黎首」は後述の通り、「民」の意味)。
 「育」は、第1義でもよいのですが、第3義の方が適切でしょう。「愛育」は、同じような意味の動詞を重ねて、1つの動詞としたものです。
 「黎」は1義のみ。ぴったりです。
 「首」はとりあえず、第1義を採っておいてください。「黎首」は、民衆の意味でしょうが、「黎民」(『尚書』堯典に見える)と「黔首」(『礼記』祭義に見える)を混ぜたような語彙です。
 「臣」は第1義「奴隶社会的奴隶」、第2義「帮助皇帝进行统治的官僚」とあり、「奴隶」「官僚」と分けますが、皇帝に対しては、すべての人間が「臣」となり、「君臣」「主臣」などの熟語があります。ここでもそういう意味ですが、名詞ではなく、動詞として用いられています。「愛育」と「臣伏」とが対になっているので、「臣」も「伏」もそれぞれ動詞で、しかも熟して1つの動詞となっていることが分かります。
 「伏」はとりあえず第1義を採ります。しかし、同音の「服」の第4義を見てください。こちらの方がより適切です。「伏」と「服」とは現代の北京音で同音であるだけでなく、中古音でも同音でした。このように、同じ発音の文字(あるいは音の近い文字)を、他方の字が持つ意味で用いることを「音通」といいます。漢語ではよくある言語現象です。
 「戎」は第3義。「羌」は1義のみです。
 この1行、文法的には、主語は前の行と同じく、古代の帝王です。対句になっており、「愛育」と「臣伏」とが対(ともに動詞、述語)、「黎首」と「戎羌」とが対(ともに名詞、目的語)です。
 なお「臣伏」は、「(人が帝王に対して)臣服する」意味にも、「(帝王が他者を)臣服させる」意味にもなりえますが、ここでは、後者の意味です。「愛育」と対になっていることからそれが分かります。