033を読む

033 臨深履薄 夙興温凊
  Lin2 shen1 lv3 bo2, su4 xing1 wen1qing4.

 この行は、前の第32行「孝當竭力,忠則盡命」を受けて、特に「孝」、両親に仕えることを説いたものです。
 まず、典故の指摘をしておきましょう。「臨深履薄」の句は『詩経』小雅、「小旻」の詩に 「戰戰兢兢,如臨深淵,如履薄冰」とあるのにより、「夙興」は同じく『詩経』小雅、「小宛」の詩の「夙興夜寐,毋忝爾所生」により、「温凊」は『礼記』曲礼上の「凡為人子之禮,冬温而夏凊」によります。1字1句、全部典故のある行ですね。
 「臨」は『新華字典』の第2義です。
 「深」は第1義、ここは『詩経』の「深淵」を省略したものです。
 「履」は第2義、「如履薄冰」の例が挙げてあります。
 「薄」は多音字で、「一 bao2」「二 bo2」「三 bo4」の3音あります。意味上は「一 bao2」「二 bo2」のどちらでもかまいません(「bo2」の第1義を見ると「同“薄”一」とあります)。ただ文言文では、「bo2」の音を用います。なお、この「薄」は「薄冰」の略です。
 「夙」の第1義に「夙兴夜寐」の例が挙げてあります。『詩経』に基づくこれらの語句が、現代においても定着していることが分かります。
 「興」は多音字で、「一 xing1」「二 xing4」の2音ありますが、ここは前者、第2義を見てください。なんとここにも「夙兴夜寐」の例が挙がっているではありませんか!よほど熟したものなのでしょう。
 「温」は第1義でよいでしょう。
 「凊」が、大問題です。なんと、『新華字典』に載っていない字なのです。『漢語大詞典』で確認すると、「qing4 清(二)的被通假字」とあります。そこで「清(二)qing4」を見ると、「涼,寒」とあります。ところが、「そうか、「清」という字には第4声の発音もあるのか」と思って『新華字典』を確認しても、見あたりません。実に残念なことです。
 『千字文』に使われている文字の中で、『新華字典』に載っていない文字は少ないのですが、このような例もあるのですね。
 この1行は典故だけで作られており、対句ではありません。