『詩経』を暗誦する

 中国古典と呼ばれうる作品はどれか?これについては、専門家同士でも、なかなか意見が一致しないようです。「中国古典」と聞くと、私は儒教経典を思い浮かべますが、そうではなく、明代の小説を連想する方もいます。確かに、平凡社の「中国古典文学大系」には、多くの小説が含まれます。

 そうではあっても、『詩経』が中国古典であると認めない専門家は、ほとんどいないのではないでしょうか?まさしく、「中国古典の中の中国古典」です。そういう意味では、『詩経』を暗誦することは特別な意味があります。

 以前、王力の『詩経韻読』という書物に触れて、次のように述べました

理想をいえば、「『論語』は孔子の時代の音で音読し、唐詩は唐代の音で音読する」のがよいのかも知れませんが、それは現実的ではありません。中国の代表的な音韻学者、王力氏も名著『詩経韻読』の中で、現代人が古代の音で『詩経』を読み上げる必要はないし、現実的でもない、という主旨のことをいっています。我々も中国の人と同様に、現代中国語の音を身につけて文言を読み上げることを目指すべきでしょう。

 いま、皆さんは『千字文』を暗誦し、『論語』学而篇を暗誦し、ここまで来られました。『詩経』を暗誦するにふさわしい時です。『詩経』は三百五篇の詩からなり、全体が風(15の国風)・雅(小雅と大雅)・頌(周頌・魯頌・商頌)に分かれています。このうち、十五国風の第一と第二、「周南」「召南」から、三篇を選んで暗誦してみましょう。

 暗誦することが目的であり、解釈は二の次ですが、どうしても気になる方は、吉川幸次郎詩経国風』(岩波書店、1958、「中国詩人選集」第1・2)を読んでみて下さい。伝統的な解釈が分かります。暗誦が終われば、お好きな解説や訳本に従って、鑑賞してみて下さい。暗誦の後の鑑賞は、ただ眺めるだけのそれとは大違いであることが分かるはずです。