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123 束帶矜莊 俳佪瞻眺
  Shu4dai4 jin1zhuang1, pai2huai2 zhan1tiao4.

 前行「矩歩引領,俯仰廊廟」から続いて、朝廷における作者の姿を描きます。
 「束」は『新華辞典』の第1義「捆住」。
 「帶」も第1義。
 「矜」は多音字で、「一 jin1」「二 guan1」「三 qin2」の三音があります。第二の音は「鰥」「瘝」に通じ、第三の音の場合は、武器の一種を意味します。ここは第一の音で、その第3義「慎重,拘谨」です。
 「莊」は第5義「严肃,端重」。
 「俳」は、1義のみで、これを採りますが、「徘」をあわせて見てください。すぐ「徘徊」の熟語を挙げていますね。
 「佪」は『新華辞典』に見えません。「徊」を見てください。そこには「徘徊」参照、との指示があります。
 「瞻」は1義のみ、「往上或往前看」。「赡」shan4(「供给人财物」「富足,足够」)の字とよく間違えますので、ご注意を。
 「眺」は1義のみ。
 言うまでもなく、「俳佪」「徘徊」は疊韻語ですね。『辞通』ででも、調べてみてください。「俳回」などとも書くのですね。
 ちなみに、『辞通』には「矜莊」も載せており、ちょうど『千字文』の「束帶矜莊」が挙げてあります。

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122 矩歩引領 俯仰廊廟
  Ju3 bu4 yin3 ling3, fu3yang3 lang2miao4.

 この行「矩歩引領,俯仰廊廟」と次の行「束帶矜莊,徘徊瞻眺」は、皇帝(梁の武帝)の御前に奉仕する、『千字文』の作者、周興嗣自身の姿を描いたものと考えられます。いよいよ、大詰めです。
 「矩」は『新華字典』の第2義「法则,规则」で、例として「循规蹈矩」を挙げています。
 「歩」は第3義「行,走」。
 「引」は第2義「拉,伸」がよいでしょう。
 「領」は第1義「颈,脖子」。
 「俯」は1義のみ、説明中に「跟"仰"相反」とあります。
 「仰」は第2義の説明に「跟"俯"相反」とあります。
 「廊」は第1義と第2義とに分ける必要があるかどうか。とりあえず、第1義でよいでしょう。
 「廟」は第1義「旧时供祖宗神位的地方」。
 この行に見える「廊廟」は朝廷を意味しますから、役人が気を引き締めて朝廷を歩いている様子だと分かります。『千字文』の作者が自分自身を作中に登場させたものでしょう。

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121 指薪脩祜 永綏吉劭
  Zhi3 xin1 xiu1 hu4, yong3 sui2 ji2shao4.

 「指」は『新華字典』の第3義「用尖头对着」。
 「薪」は1義のみ。
 「脩」は、第2義に「同"修"」とありますので、「修」を見ると、その第1義に「使完美或恢复完美」とあります。
 「祜」は1義のみ「福」。
 「永」は第2義「长久,久远」。
 「綏」は第2義「平安」。
 「吉」は1義のみ。
 「劭」は第2義「美好」。
 このうち、「指薪」は分かりにくいのですが、『莊子』養生主篇に「指窮於為薪,火傳也,不知其盡也(指の働きは(すでに燃えている薪に)薪を近づけるに過ぎないが、それで火が伝わり、尽きることがない)」とあるのが典故です。『千字文』のように「指薪」と書けば「薪を指さす」意味にしかなりませんが、言いたいのは、次々と薪に火を伝えてゆくように(聖火リレーのようなものです)、子々孫々、生命をつないでゆく、ということでしょう。
 なお、「祜」の字を「祐」と誤っている本が結構あります。「文言基礎」で底本としている「真草千字文」では正しく「祜」としています。古写本・古版本はともかく、新しく校訂本を出版するときは、このような誤りを修正すべきでしょう。
 「祜」は上声、「祐」は去声です。『千字文』の第八段では、この位置に去声字を置きませんから、「祐」が誤字であると分かります。詳しくは、「奇数句の4字目の音について」を参照してください。

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120 璇璣懸斡 晦魄環照
  Xuan2ji1 xuan2wo4, hui4po4 huan2zhao4.

 前行の「年矢毎催」を「羲暉朗曜」とともに、この「璇璣懸斡,晦魄環照」が受けるかたちです。
 「璇」を『新華字典』で引くと「美玉」とあり、さらに熟語として「璇玑」を挙げ、「古代天文仪器」と説明されています。
 「璣」はすでに直前で見た「璇玑」の「玑」です。その第2義に「古代侧天文的仪器」とあります。
 「懸」は第1義「挂,吊在空中」。
 「斡」は1義のみ、「转,旋」。
 「晦」は、第3義「夏历每月的末一天」でよいでしょう。みそか、ですね。
 「魄」は多音字で、「一 po4」「二 tuo4」「三 bo2」の三音ですが、ここはとりあえず、第一の音の第1義を採っておきます。しかし、ピタリとくるものではありません。『辞源』には「月初出或將沒時的微光」とあり、それが正解です。
 「環」は第1義「圈形的东西」でよいのですが、ここは、それから派生した動詞です。"輪のように回る"ということです。
 「照」は第1義。
 ここに見えた「璇璣」は星の別称、「晦魄」は月の別称で、前行の「羲暉」は太陽の別称です。第2行「日月盈昃,辰宿列張」と似通った内容ですね。

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119 年矢毎催 羲暉朗曜
  Nian2shi3 mei3 cui1, xi1hui1 lang3yao4.

 この行と次の行は、時間と日月星辰の運行の話題です。
 「年」は『新華字典』の第1義でよいでしょう。
 「矢」は第1義ですが、ここでは「年」の比喩として用いられています。
 「毎」も第1義。
 「催」は第1義「催促,使褰快行动」です。
 「羲」は1義のみでそれを採りますが、『千字文』にピタリとするのは、同音の「曦」の字ですから、それも併せて写します。
 「暉」は第1義。
 「朗」も第1義です。
 「曜」も第1義、「照耀」です。

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118 毛施淑姿 工顰研咲
  Mao2 Shi1 shu1zi1, gong1 pin2 yan2xiao4.

 前行まで、その道の達人たちを述べて、ここでは、毛嬙・西施という、二人の有名な美女を紹介します。
 「毛」は固有名詞ですが、これまで通り、『新華字典』の第1義を採っておきましょう。
 「施」も固有名詞、これも第1義を採ります。
 「淑」は1義のみで、「善,美,过去多指女人的品紱好」。
 「姿」は第1義「容貌」。
 「工」は第6義「善于,长于」。
 「顰」は1義のみで、「皱眉头」ですが、「效颦」の語が挙げられ「转」(派生義)として「模仿他人而不得当」とあります。
 「研」は第1義を採りますが、この場合の意味は、そのすぐ上に見える同音字「妍」のそれですので、それも採ってください。「美丽」です。
 「咲」は「笑」を見て、その第1義を採ります。「咲」は「笑」の異体字というあつかいですね。
 「顰」、顔をしかめることがうまい、というのは妙な話ですが、故事があります。『荘子』天運篇に見える話がそれです。西施が胸を病んで顔をしかめたところ、とても美しく、それを見た美しくない女性がまねをして顔をしかめました。みな逃げたそうです。

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117 釋紛利俗 並皆佳妙
  Shi4 fen1 li4 su2, bing4jie1 jia1miao4.

 前の2行「布射遼丸,嵇琴阮嘯」「恬筆倫紙,鈞巧任釣」を承け、既に挙げられた名人・達人たちを褒めます。
 「釋」は『新華辞典』の第2義「消散」で、例として、「冰释(喻怀疑、误会等完全消除)」「释疑」が挙げてあります。
 「紛」は1義のみ。
 「利」は第2義です。
 「俗」は第1義「风俗,社会上长期形成的风气,习惯等」。
 「並」は「并」を見てください。その4義「副词」の2「同时,一起」です。
 「皆」は1義のみ。
 「佳」も1義のみです。
 「妙」は第2義「奇巧,神奇」。