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殷代の璧

030 尺璧非寶 寸陰是競
  Chi3bi4 fei1 bao3, cun4yin1 shi4 jing4.

 「尺」は、多音字『新華字典』では「一 chi3」「二 che3」の2音ですが、ここは前者、その第1義です。ただ、これは「市制」すなわち、現在の制度に基づいた説明です。
 「璧」は1義のみ。
 「非」は第1義に「跟“是”相对」とあり、これを採ります。ただし、「1.不,不是。2.不合理的,不对的」とあり、前者は否定の副詞、後者は形容詞であり、用法がまったく違います。「是」と対にして説明しようとして、無理が出たのでしょう。ここでは前者の方です。
 「寶」は第2義です。
 「寸」は1義のみですが、先ほどの「尺」と同様の問題があり、要注意です。「(喩)短小」として「寸阴。寸步。手无寸铁。鼠目寸光」の例が挙げてありますので、「寸陰」が熟していることが分かります。
 「陰」は、「寸」の項目に熟語として登場したわけですが、あらためて調べると、ぴったりした定義は見あたりません。実はこの「陰」は「光陰(昼と夜、の意)」を略したものです。第3義を写しておきましょう。
 「是」は、「非」の説明にあったように、「非」と対なのですが、『新華字典』の説明は、あまりよくありません。第8義に「对,合理,跟“非”相对」とありますが、これは形容詞の用法です。では、「非」の第1義の「1.不,不是」に対応するものがどれに当たるのかというと、それは第1義「表示判断」です。しかし、この「是」という語は、歴史的な変化がたいへん大きく、古代の用法と現代の用法が相当に異なるのです。現代漢語では、これを動詞として用いています。しかし、この『千字文』の文脈では動詞ではなく、強意の助詞として用いられていると考えられます。
 「競」は1義のみです。
 文法的に見ると、対句ではありますが、完全なそれではなく、ゆるやかなものです。