声調について

 中国語には、「声调 sheng1diao4」というものがあります。すべての文字をそれぞれ決まった「音の調子」(英語でtoneといいます)で発音するのです。現代中国語(北京語)の場合、「四声 si4sheng1」といって、4種類あります(1声・2声・3声・4声)。広東語(広東方言)には、9種もあるそうです。
 声調を発音し分け、聞き分けることが出来なければ、中国語はほとんど通じません。吉川幸次郎「中国文章論」に面白い例が挙げてあります。

「梨も李〈すもも〉も栗も、同じく果物であり、同じくliの音でありますけれども」、「もしこう区別して発音しなければ、梨が梨でなく、李が李でなく、栗が栗でなくなってしまうのであります」。

まことに、その通りです。
 古代の中国語(たとえば『詩経』の書かれた時代の中国語)に声調があったどうかは、研究者により意見が分かれますが、その後、声調が区別されるようになり、もちろん『千字文』の書かれた6世紀にも、それは存在しました。その時期の中国語の音韻体系は「中古音」と呼ばれ、声調は現代北京語と同じく、4種でありました(平声・上声・去声・入声)。ただし、中古音と現代北京音の声調は、同じではありません。その対応関係は、以下の通りです。

・中古音「平声」は、北京音「1声・2声」に対応。
・中古音「上声」は、北京音「3声」に対応。ただし、一部は「4声」に入る。
・中古音「去声」は、北京音「4声」に対応。
・中古音「入声」は、北京音では消滅し、「1声・2声・3声・4声」に分かれる。

 なお中古音でいうと、漢字全体の約半数が「平声」で発音されます。このため押韻は、平声の字を用いることがずいぶんと多いのです。
 『千字文』「本文その一」として示した24行のうち、各行の最後の字の発音をご覧ください。すべて「ang」という音を含んでおり、かつ1声もしくは2声であることが分かると思います。中古音の平声です。ついでにいうと、第1行の第4字も同じです。これらが韻を踏んでいる部分です。
 音については、だんだんとお話してゆきたいと思いますが、今のところ、現代北京音で読み上げ、押韻の感触をつかんでいただければと思っています。すでに4行を暗誦できるわけですから、5カ所の押韻箇所を意識してみてください。
 なお、漢字音について簡単に知りたい場合は、『漢辞海』の付録「漢字音について」をご一読ください。「これでは簡単すぎる」という方がもしあれば、そのうち、ブックリストをお示ししましょう。