音韻

筍の音は?その二

第106行「晝眠夕寐,籃笋象床」に出てきた「笋」の字をどう読むのか?これについて引き続き考えてみたいと思います。 『漢語大詞典』では「籃筍」(「笋」は「筍」の異体字)という熟語の場合、xun4と読むように指示しています。「筍」をxun4と読むことにつ…

経典釈文

一つの漢字に複数の音がある場合、それは「多音字」と呼ばれます。この「文言基礎」でも、多音字については一々指摘しています。しかし古代においては、一つの漢字を「読み分ける」習慣は、どうやら、存在しなかったらしいのです。つまり、多音字はなかった…

筍の音は?その一

第106行「晝眠夕寐,籃笋象床」に出てきた「籃笋」ですが、この「笋」の字をどう読むかにつき、Hirshさまからご質問をいただきました。 『新華字典』から離れてしまいますが、今回の『漢語大詞典』の記述にあたったときの疑問です。「籃」に以下のようにあり…

于と於

第82行に「治本於農,務茲稼穡」とあり、そこで「於」の字について検討しました。『千字文』の使い方においては、意味上、「於」は「于」と置き換えることができ、ともに「yu2」と読むことが分かりました。 ところが、「於」の漢音は「ヨ」(呉音は「ヲ」)…

双声語

「造次」という熟語は、「双声語」ですので、今日はこの説明をしたいと思います。 『漢辞海』第2版(三省堂、2006年)によると、「双声」というのは次のようなものです。 二字の熟語で、それぞれの字の声母(=語頭音)の発音が同じであること。「参差(シン…

日本語で読める中国音韻学概説

「難解なことを理解しようとする場合、なるべく多くの概説書・入門書を読むとよい」という話を聞いたことがあります。たぶん、本当のことだろうと思います。そこで、日本語で読める音韻学の概説書をご紹介します。私も以前、読みました。 李思敬氏『音韻のは…

反切と中古音の推定音価

反切は、ある漢字(「被切字」)の音を、別の漢字2字(「反切上字」と「反切下字」)を用いて示す表音法です。たとえば、「卑、府移切」の場合は、「卑」が被切字、「府」が反切上字(声母を示す)、「移」が反切下字(韻母を示す)で、「府」「移」の2字に…

韻の確認練習

現在読み進めている『千字文』の第三段落を用いて、韻を確認してみましょう。この段落で韻を踏んでいるのは、次の11字です。 「卑」「隨」「儀」「兒」「枝」「規」「離」「虧」「疲」「移」「縻」 これらをまとめて「広韻検索システム」で検索してみると、…

「忘」は去声か平声か

『千字文』の22行目「知過必改,得能莫忘」の「忘」字の説明で、以前、次のように書きました。 「忘」は難題です。この字を調べると「wang4 忘记,不记得,遗漏」とあります。これでも意味は通じます。しかし、以前にも指摘したとおり、この前後、偶数句の最…

「変調構詞」の考え方

孫玉文氏の『漢語変調構詞研究』(北京大学出版社、2000年)という書物を読みました。ずいぶん前に出版されたもので、いまでは増訂本(商務印書館、2007年)も出ているそうですが、今回読んだのは初版の方です。 さて、書名にもなっている「変調構詞」とは、…

『広韻』で声調を調べる

『千字文』が世に出てしばらくしてから、『切韻』という音韻の書物ができました。陸法言という人物が、数人の友人とともに作ったもので、隋の文帝の仁寿元年(601)に書かれた序文がついています。これに改訂を加えて、北宋の大中祥符元年(1008)、『広韻』…

多音字と去声

「中国語の漢字は、原則的に1字1音」と単純化して説明されることがありますが、非常に安易でミスリーディングな物言いです。 1字に複数の読みがある「多音字」が少なくないことについては、「多音字について」のエントリーで紹介しました。 その「多音字」の…

奇数句の4字目の音について

先日、『千字文』の第25行目まで(50句)を終えました。字数でいうと、1000字のうちの200字ですから、ちょうど2割になりますね。暗誦できるようになった方、なめらかに読み上げられるようになった方、まだまだという方、いろいろと事情はおありでしょうが、…

入声について

以前、「中古音」の声調、平声・上声・去声・入声の「四声」を説明いたしました。中国語では、「声調(音の調子 tone)」を区別するのですが、『千字文』の書かれた時代の声調は4つでした。 そこでは「中古音」の「四声」と現代北京音の「四声」とを対照させ…

声調について

中国語には、「声调 sheng1diao4」というものがあります。すべての文字をそれぞれ決まった「音の調子」(英語でtoneといいます)で発音するのです。現代中国語(北京語)の場合、「四声 si4sheng1」といって、4種類あります(1声・2声・3声・4声)。広東語(…

多音字について

中国語の漢字には、複数の発音をもつものが数多くあります。これまで出てきた例としては、「地」に「de」「di4」の2音があったこと、「宿」に「su4」「xiu3」「xiu4」の3音があったのが、それに当たります。発音の微少な差を区別することにより、意味を区別…