『広韻』で声調を調べる

 『千字文』が世に出てしばらくしてから、『切韻』という音韻の書物ができました。陸法言という人物が、数人の友人とともに作ったもので、隋の文帝の仁寿元年(601)に書かれた序文がついています。これに改訂を加えて、北宋の大中祥符元年(1008)、『広韻』が作られました。中古音と呼ばれる六朝・隋唐時代の音韻を調べるためには、この『広韻』を利用します。
 『広韻』は、漢字を音韻ごとに分類した書物です(「韻書」といいます)。まず韻を大きく平・上・去・入の四声に分けて、さらに細かく206の韻に分類してあります。そして、「反切」という方法で、それぞれの字の発音が分かるように工夫されています。これを見れば、当時、漢字がどのように読まれていたかを知ることができるわけです。
 「反切」の仕組みと読み方については、あらためてお話しすることとして、今日は電子版の『広韻』を用いて、「声調を調べる」ことをやってみましょう。簡単です。
 『千字文』の第2段落の偶数句は、ほぼ「eng4」「ing4」という音で韻を踏んでいます。声調は去声で、現代北京音では第4声になる理屈です。確認してみてください。
 ところが、第28行の「聽」、第40行の「詠」は韻字であるにも関わらず、第4声ではありません。「広韻検索システム」で調べてみましょう。ボックスに「聽」と入力して、検索開始すると、次の結果が表示されます。

「聽」 2例
下平 15:青 他丁切 34丁表04行目
去声 46:徑 他定切 47丁裏06行目

 確かに中古音では去声の読み方があり、その韻は「徑」韻であったことが確認できます(「47丁裏06行目」とあるのは、沢存堂本と呼ばれる版本における位置です)。『千字文』の作者は、この音で読ませようと考えたに違いありません。
 次に「詠」を引いてみましょう。

「詠」 1例
去声 43:映 爲命切 46丁表09行目

 去声で「映」韻であったことが確認できます。
 また、奇数句の4字目は去声以外の音になるはずですので、現代北京音で第4声になっている字をチェックしてゆきます。第27行の「立」、第32行の「力」を調べると、これらが入声であることが分かります(もちろん、日本漢字音を用いれば、調べるまでもなく入声であることは分かりますが)。第39行の「仕」は、現代北京音では第4声ですが、入声ではないので、調べてみましょう。

「仕」 1例
上声 6:止 [040297]里切 11丁表06行目

 やはり、去声ではなく、上声であることが確認できました(中古の上声は、声母の種類により、現代北京音の第3声と第4声に分かれています)。
 『広韻』の使い方を覚え、紙の本で確認した方がよいのはいうまでもありませんが(台湾の藝文印書館から、索引付きの本が出ています)、とりあえず、この便利な「広韻検索システム」で中古音に慣れてください。