双声語

「造次」という熟語は、「双声語」ですので、今日はこの説明をしたいと思います。
 『漢辞海』第2版(三省堂、2006年)によると、「双声」というのは次のようなものです。

二字の熟語で、それぞれの字の声母(=語頭音)の発音が同じであること。「参差(シンシ)」「髣髴(ホウフツ)」「流利(リュウリ)」など。
(注)それぞれの字の韻が同じであるものは畳韻という。

 「声母」が共通する二字を組み合わせた熟語が「双声語」であるというわけですが、双声語・畳韻語は、「声母」と「韻母」から構成される漢字の特徴を体現している、漢語ならではの語彙であると感じます。
 より一般的にいうと、双声・畳韻語は、ギリシア語を語源とする"onomatopoeia"と呼ばれる語彙、「擬音語」「擬態語」と共通した特徴があります。動物の鳴き声を擬音語で表すのは万国共通として、日本語には特にオノマトペイアが多いとされます。「ざぶざぶ」「ころころ」「しいん」など。
 一方、中国語(汉语)もonomatopoeiaの非常に多いことばです。古代の漢語は、特にその傾向が強いといえます。それが双声・畳韻語なのです。
 双声・畳韻語の特徴は、情緒・気分・雰囲気・様子・状態といった言語化しづらいようなものを形容的に言語化している点にあります。「音」によってそれを表現するので、漢字そのものには意味がありません。それゆえ、「髣髴」と書いても「彷彿」と書いても意味は変わりません。
 「造次」が双声語であるということは、音韻学的にいうと、この2字が共通した声母を持つということです。「広韻検索システム」で引いてみましょう。

「造」 2例
 上声 32:晧 昨早切 35丁裏09行目
 去声 37:号 七到切 40丁裏03行目
「次」 1例
 去声 6:至 七四切 08丁裏03行目

 この場合、両方とも去声で読みます。ということは、両方とも反切上字が「七」で共通しています。また、『新華字典』では「仓促」と解釈されていましたが、「倉」も「促」の反切上字も「七」です。この音を『漢字古音手冊』では「ts'」と想定しています。つまり、声母は同じです。
 ある『論語』の注釈は「造次」を「草次」「倉卒」と言い換えていますが、「草」「卒」の声母も「造」と共通です。
 これらの意味するところは、「双声語は多用な表記を持つ」ということです。「造次」「草次」「倉卒」「倉促」「匆促」は、表記こそ異なりますが、すべて「時間のない、あわただしい感じ」を表現した双声語です。
 双声と対をなす畳韻と、そして双声・畳韻語を網羅した工具書については、いずれお話しいたします。