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026 景行維賢 克念作聖
  Jing3xing2 wei2 xian2, ke4 nian4 zuo4 sheng4.

 「景行」は、『詩経』を出典とする熟語で、『詩経』小雅「車舝」の詩に「高山仰止,景行行止」とあります。『詩経』は非常に古い時代に作られた詩を集めた詩集ですから、それぞれの詩の意味は明確でなく、注釈に頼らなければ読み解けません。この「景行」の意味も分かりがたいのですが、最も権威のある注釈「毛伝」によると、「景」は「大」という意味、とのことですから、これに従いましょう。
 「景」を『新華字典』で調べてみても、残念ながら、「大」の意味は載っていないのですが、出典のあることばについては、どうしても基本義通りにはならないものです。仕方ありませんので、第1義を書き写すにとどめます。
 「行」は多音字で、「一 xing2」「二 hang2」の2音です。これも出典を知らなければ決められないのですが、ここでは前者の第6義を見てください。「(旧读xing4)足以表明品质的举止行动:言行。品行。紱行。操行。罪行」とあります。「旧读」に従って、去声で読むのはもちろんかまわないのですが(『千字文』の書かれた時代でもそう読まれたはずです)、とりあえず、平声で読んでおきたいと思います(押韻字ならば、多少の無理をしてでも「旧读」に従ってもよいのですが)。
 「維」は第2義「文言助词」です。
 「賢」は第1義です。
 「克念作聖」も典故のある句で、『尚書』多方篇に「惟聖罔念,作狂。惟狂克念,作聖」とあるのによります。
 「克」「念」は、ともに第1義でよいでしょう。
 「作」は第4声と第1声の読みがありますが、ここでは前者です。ただ、典故のあることばですから、意味は一筋縄ではいきません。『新華字典』には載っていないのですが、「為」の意味です。
 「聖」は第1義で、とくに「聖人」を指しています。
 文法的に見ると、厳密には対句と呼べないほど、きわめて緩い対です。「賢」と「聖」とが唯一、厳密な対です。前句は、「景行」が名詞、「維」が助詞、「賢」が名詞。後句は、「克」が助動詞、「念」が動詞、「作」が動詞、「聖」が名詞です。
 この1行、もしも、『詩経』『尚書』といった典故がなければ、何をいいたいのかほとんど理解しがたいことばです。「『詩経』『尚書』が教養の基盤にあるのだな」程度に思っていただければ、今の段階では結構です。『千字文』をひとまず終えて、その次の段階として『詩経』を暗誦し、『尚書』を読みこなせばよいのです(ただし、そのためには何年もの時間がかかりますので、特に関心をお持ちの方のみが挑戦することですが)。