旧字と新字

「学而時習之、不亦説乎。」(日本式)
「学而时习之,不亦说乎!」(中国式)
「學而時習之,不亦說乎。」(台湾式)

 『論語』冒頭の一句ですが、3通りに書いてみました。比較してみると、わずかではありますが、違いがあることが分かると思います。台湾では、伝統的な「正字」(1716年に完成した『康煕字典』を根拠とする字体)を使っていますが、日本と中国では、それぞれ略字を含んだ漢字体系を採用しています。この例で言えば、日本では「学」(厳密に言えば「説」も)、中国では「学」「时」「习」「说」です。「新」「旧」の関係でいえば、略字が「新字」で正字が「旧字」です。
 現在の台湾と同じように、百年ほど前はどこの地域でも「正字」が標準と見なされていました。しかしながら、「正字」は筆画が多く、面倒だということでしょう、近代以来、国家主導で、漢字の省略が進められるようになりました。日本では1923年の「常用漢字表」、中国では1956年の「漢字簡化方案」に始まるということです。なお中国では旧字を「繁体字」、新字を「簡化字」と呼んでいます。
 このように、さまざまな「漢字」が併存している状況ですから、「文言」や現代中国語を学ぶ時にも、いろいろな「漢字」に出会うわけです。
 特に、中国古典に関心のある日本人がよく口にするのは、「中国のあの略字は、どうも」という違和感です。嫌悪感かもしれません。「読点の形がいやだ」「横書きがいやだ」「古典に感嘆符や疑問符とは何事か」という不満もよく聞きます。
 では、台湾の印刷物に満足するかというと、そうでもなく、「なんだか、字のデザインが」「句点の位置が、どうも」となるわけです。
 一方、現代中国語の熱心な学習者の一部には、「簡化字こそ本当の漢字で、日本の通行字などは偽物に見えてきた」という人もいます。
 つまり、これは単なる「慣れ」の問題なのです。あまり神経質になるのも考えものです。こんなことで争うのはやめましょう(「美感覚の問題だから、ほっといてくれ」といって最後まで抵抗する人も、中にはいますが)。このサイトでは、本文は日本の通行字を、古典の引用は旧字を使うつもりですが、混じることもあるでしょう。厳しく問い詰めないでください。
 なお『新華字典』では、簡化字を含む体系を採用していますが、立項されている漢字すべてにつき、「簡化字」「繁体字」の対応関係がすぐに分かるように作られています。そういう意味でも、古典を読むのに適した字典といえます。
 最後に一つ。「縦書き」「横書き」は、かなり大きな違いかもしれません。学習する際に、本文をノートに書き写しますが、それを「縦書き」にするか、「横書き」にするか、悩ましいところです。「横書きは漢字文化になじまない」という大議論を立てる方もいらっしゃいます。一理あるかもしれません。これについては、またの機会に語ってみたいと思います。